脳梗塞は、発症したらすぐに薬物療法を開始して、脳の損傷を最小限にくい止めることが大切です。急性期を乗り越えたら血栓をできにくくする薬物療法にはいります。
脳梗塞とは
動脈硬化が原因で発症する脳梗塞は、非常に危険な病気です。患者数は137万人で、年間、13万人のもの人が亡くなる病気です。がん、心臓病に次いで多いのが脳卒中(脳血管障害)です。脳卒中には、脳の血管がつまる、脳梗塞、脳の血管がやぶれる、脳出血、脳の血管の瘤が腫れるする、くも膜下出血があります。このうち、最も多くを占めるのが脳梗塞です。
脳梗塞では、脳の血管が詰まって、そこから先へ血流が流れなくなり、酸素やブドウ糖が行き渡らなくなるために脳の細胞が一部壊死をしてしまいます。こうした原因により一命をとりとめても後遺症が残ることが少なくありません。
脳梗塞にも3タイプあり次にように分類されています。
ラクナ梗塞
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脳の中の細い動脈が詰まる症状です。主に高血圧が原因で脳の星動脈の動脈硬化が進み、血管壁が厚くなったり、内腔が狭くなり最終的には、詰まってしまいます。 |
アテローム血栓性脳梗塞
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脳の比較的太い動脈や脳に血液を送る頸動脈の動脈硬化から起こるものです。コレステロールなどが血管壁にたまってできたアテロームが破れて血栓ができたり、頸動脈でできた血栓が脳の血管に詰まったりします。 |
心原性脳梗塞症
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心臓の内部でできた血栓が脳の血管に流れていって詰まるものです。心房細胞という不整脈の一種などにより心臓の中で血流がよどんで血栓ができることから起こります。重症化しやすいタイプです。 |
治療法
病型だけでなく、どの血管が詰まって脳のどの部位がどの程度障害されたかに応じて治療法は異なります。また、急性期、慢性期そして後遺症によっても治療は異なります。
急性期
発症直後の急性期には、血圧、呼吸、体温などの全身の管理や合併症対策に注意しながら脳細胞の損傷を最小限に抑えるための治療が行われます。中心になるのは、薬物療法ですが、発作が起きてからの経過時間が治療法を決めるための鍵となります。
血栓溶解療法
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発症直後には、血栓溶解薬を使い、血流の再開、改善を図ります。 |
抗血小板療法
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血栓が大きくなるのを防ぎます。 |
抗凝固療法
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血栓が大きくなるのを防ぎます。 |
抗脳浮腫療法
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梗塞部位生じるむくみを抑え、脳圧低下を図ります。 |
脳保護療法
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脳細胞の死滅をくい止めるために発症直後に脳保護薬を使用します。 |
血液希釈療法
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血漿増量薬で血液の粘りを下げて血流を改善します。 |
このほか脳の圧力により意識障害が進行しているような場合には、外科的治療で圧迫を軽減します。
慢性期
慢性期は、再発予防が中心となります。脳梗塞は、再発を繰り返すと症状がさらに悪化するので、一度脳梗塞を起こしてしまった人は再発予防につとめます。
ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞では、血圧のコントロール、抗血小板薬による血栓予防、動脈硬化を防ぐための脂質異常症の治療などを行います。心原性脳梗塞症では、抗凝固薬による血栓予防が大事になります。
頸動脈の狭窄が進行していれば、カテーテル治療、そして外科手術を行うケースもあります。
後遺症
後遺症を最小限にとどめるための大切な治療は、急性期からリハビリを行います。脳梗塞の後遺症に伴う意識低下やめまいなどの症状に対して「脳循環代謝改善薬」を使う場合もあります。
脳梗塞の主な症状(まとめ)
- からだの左右どちらかがうまく動かせない
- 体の左右どちらかがしびれる
- 舌がもつれる
- ろれつが回らない
- ふらついて立てない
- ぐるぐる回るようなめまい
- テキスト
- 二重に見える
- 片目が突然見えなくなる
- 視野の片側が欠ける
- 意識が朦朧とする
脳梗塞の治療に処方される薬
脳梗塞の治療では、次のような薬が必要に応じて組み合わせて処方されます。急性期には、注射薬が、その後の再発予防には内服薬がメインに使われます。
血栓溶解薬
脳梗塞が発症した直後に使われる血栓溶解療法で処方される薬です。血栓を溶かす作用があります。脳の血管に詰まった血栓を薬で溶かすことで、血流を再開させます。詰まって間もないうちに治療を開始することができれば脳のダメージを最小限に押さえることが出来、後遺症も少なくてすみます。
現在、注目されているのが、「-tPA」(組織プラスミノーゲンアクチベーター)の一種、「アルテプラーゼ」という注射薬で静脈に点滴して使います。血栓溶解薬として心筋梗塞の治療には従来から使用されていましたが、2005年から脳梗塞の治療も保険適用となりました。タイプを問わず、脳梗塞の治療に使えますが、適応は発症から3時間以内に限定されます。また、数は限られますが、この治療を行うことが可能な医療機関では、治療の対象となるかどうかが検討されます。
t-PA療法は、脳梗塞の発症から3時間以内に治療を受けるとほとんど後遺症も残らずに回復するのですが、時間が経過してしまった場合には、脳の細胞が壊死して血管がもろくなるため、血流を再開させると、脳出血を招く危険性が高まることから慎重に検討されます。
このほかの血栓溶解療法としは、カテーテルを血管の詰まった部分まで送り込み、ウロキナーゼという薬を注入する方法があります。比較的、太い動脈に血栓が詰まった軽症から中等症状の人でCT画像上に梗塞巣が見られず、発症から6時間以内に治療が開始できる場合には、効果が期待できるとされています。
ただし、この治療も受診できる病院が限られ、現在のところ健康封建も適用されません。従来、発症後、5日以内のラクナ梗塞やアテローム血栓性梗塞に対し、脳の血流改善を目的に少量のウロキナーゼを静脈に点滴する治療も行われてきましたが、十分な治療効果を得られずに最近では、この治療も行われなくなっています。
抗血小板薬
血液中の血小板には、血管壁が損傷をうけた際に、その部位を固めて出血を抑制する働きがあります。脳の血管内にできる血栓も、動脈硬化で傷んだ血管の内壁に血小板が集まります。
抗血小板薬は、血小板が活性化して固まるのを抑えて血栓ができにくいようにする薬です。脳梗塞の場合、オザグレルナトリウム、という注射薬やアスピリンやその配合剤のアスピリン・ダイアルミネートをはじめとする内服薬が処方されます。
急性期
脳梗塞の抗急性期の治療では、抗血小板薬は主に血栓が大きくなって進行を防ぐ目的で処方されます。オザグレルナトリウムは、発症後5日以内のラクナ梗塞やアテローム血栓性梗塞に点滴を使用して用いられます。運動障害の改善などの効果が確認されえちます。血流を増やす作用もあり、とくにラクナ梗塞に有効です。また、慢性時期に処方されることの多い、アスピリンの内服薬を発症後48時間以内の急性期に用いることで有効なケースもあります。急性期の抗血小板療法としては慢性期の2倍ほどの量を服用します。
慢性期
ラクナ梗塞やアテローム血栓性梗塞の慢性期には、血栓ができるのを防ぐ目的で抗血小板薬の内服薬を服用します。アスピリンが代表的な薬です。そのほかにチクロピジン、クロピドグレルなどの作用の強い薬も処方されます。ラクナ梗塞の再発予防には、シロスタゾールも有効です。
抗血小板薬は、抗凝固薬のワーファリンに比べると血栓予防の作用は弱いのですが、出血の危険性も相対的に低いことから、心原性脳梗塞症でワーファリンを使えない場合の血栓予防にも処方されます。
使用上の注意と副作用
出血しやすくなります。アスピリンは胃腸障害などの副作用が出やすいため、特に水分の摂取制限がない限り多めの水分で服用します。
チクリピジンでは、血小板や白血球の減少、肝障害などが起こる場合があります。定期的な血液検査を実施します。クロピドグレルも同様の副作用の可能性がありますが、安全性は高いとされています。
抗凝固薬
血液中の凝固因子の働きを抑制し、血栓を出来にくくする作用を持つ薬です。脳梗塞の治療においては、「ヘパリンナトリウム」「アルガトロバン」内服薬のワーファリンが処方されます。
急性期
発症後、48時間以内の脳梗塞に対して主にヘパリンナトリウムを点滴で投薬する抗凝固療法が行われます。主として、心原性脳梗塞症の急性期の再発を目的とする治療ですが、ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞で梗塞巣が拡大しているような場合、にも検討されるケースがあります。ただし、脳の梗塞が広範囲に及ぶ場合や発作前から著しく血圧が高いケースには、この方法は使われません。
発症直後のアテローム血栓性脳梗塞に対してはアルガトロバンによる抗凝固療法が行われることもあります。発作から48時間以内で脳の梗塞病変が1.5cmをこえるようなケースが対象となり、アルガトロバンを1週間点滴で行います。
慢性期
慢性期の治療では、血栓予防のためにワーファンリンを処方します。心臓でできる血栓には、凝固因子のかかわりが深いことから心原性脳梗塞因子のかかわりが深いことから再発予防に必須の薬です。
使用上の注意と副作用
出血しやすくなるため、妊娠中の女性、高齢者、これから手術の予定などがある人は使えない場合があります。薬の効き方には個人差があり、血液検査により薬が適切に効いているかどうかの判断をします。服用中は、ビタミンKを多く含む食品(納豆・クロレラなど)などは薬の作用を低下させてしまうので控えるようにします。
ほかの薬との併用でも効果が変動しやすく医師の指示を守ることが大切です。
抗脳浮腫薬
脳梗塞を起こすと、梗塞部の周辺の組織に浮腫(むくみ)が生じます。むくみが強く脳圧が高まると、脳の組織が圧迫され正常な細胞にまで障害が及ぶ可能性があります。そこで急性期の抗脳浮腫療法では「濃グリセリン・果糖(グリセロール)」「D-マンニトール」などの脳のむくみを抑制する薬を点滴で行います。特に心原性脳梗塞症、アテローム血栓性脳梗塞でグリセロールがよく処方されます。腎障害、糖尿病患者には慎重に使用します。
脳保護薬
抗酸化作用をもつ「エダラボン」という注射薬が、脳梗塞の急性期の脳保護療法に点滴で使われます。脳梗塞発作後の、深刻な細胞破壊の深刻に影響を及ぼす脳細胞の死滅を防ぐためのものとなります。
どのタイプの脳梗塞にも有効ですが、発症から24時間以内の治療を開始できた場合に限ります。
血漿増量薬
脱水で血液が濃くなると、血液が流れにくくなり、脳梗塞を悪化させる要因になります。そこで急性期の血液の希釈療法では血液の液体成分である「血漿」を増やして粘りを下げ流れやすくする「デキトラン40」などの血漿増量薬を点滴で行います。
脳循環代謝改善薬
脳の血流や代謝を改善する薬です。後遺症に伴うめまいなどに「イブジラスト」「イフェンプロジル」、意識低下に「ニセリゴリン」などの内服薬が処方されます。「シチコリン」という注射薬が急性期の意識障害や発作後の片麻痺などに用いられる場合もあります。