脂質異常症(高脂血症)の治療に使われる薬について

血液中のコレステロールや中性脂肪が過剰な状態は、動脈硬化を促進しやすく、特に心筋梗塞、狭心症などの冠動脈疾患や、脳梗塞などの発症と関連性が深いと考えられています。食事療法と運動療法を基本に、必要であれば薬剤によるコントロールも必要になります。

脂質異常症とは

5年ほど年に動脈硬化予防のためのガイドラインが改訂され、従来の「総コレステロール値」にかわり、「LDLコレステロール値」を中心に診断する新しい治療指針が登場しました。それまで、「高脂血症」と呼ばれていた病気が「脂質異常症」と改められています。
新しい診断基準は「悪玉」とされるLDLコレステロールや中性脂肪の値が高すぎる場合に、善玉とよばれる「HDLコレステロール」の値は低すぎる場合に、脂質異常症と診断されます。

脂質異常症の診断基準(空腹時)

  • 高LDLコレステロール血症…LDLコレステロール値140mg/dL以上
  • 低HDLコレステロール血症…HDLコレステロール値40mg/dL未満
  • 高中性脂肪(トリグリセライド)血症…中性脂肪(トリグリセライド)値150mg/dL以上

総コレステロール値は、血清脂質を把握するために重要ですが、脂質異常症の診断基準からは、あえて外され、動脈硬化予防のためのスクリーニングの値や治療の目標値としてはLDLコレステロール値を用いるようになりました。高コレステロールと診断される人の多くは、高LDLコレステロール血症ですが、HDLコレステロールが多いことで総コレステロール値が高い人は、脂質異常症の治療対象にはなりません。

脂質異常症になっても通常は、自覚症状はありませんが、放置すると心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化に関連した疾患を引き起こす原因となることから治療が必要とされています。即、命に関わる病気とリンクしているためにきちんと治療することが大切です。
日常生活や食習慣も改善することも重要となります。

治療法

脂質異常症の中には、遺伝子異常により起こる場合と甲状腺機能低下症や糖尿病、腎臓病などの病気が原因で起こるもの、また、薬の副作用によるものなどがさまざまです。

治療を開始する前には、その原因の特定が重要で併せて血清脂質にどのような異常が起きているかを専門的に徹底的に調べます。病気や薬が原因である場合には、迅速にその原因への対処を行います。

脂質異常症は、食事を中心とする生活習慣との関わりが深く、治療の基本となるのは、まず生活習慣を見直し、改善できない場合に薬物療法の検討になります。

治療目標は、患者さんの体質、生活習慣、危険因子の種類、数によって分類します。この分類はカテゴリー分けとされる作業でそれぞれ目標値を定めます。
LDLコレステロール以外の危険因子は、主に加齢、高血圧、糖尿病、喫煙、冠動脈疾患の家族歴、HDLコレステロール血症などになります。

脂質異常の場合は、高血圧ほど急速に血管に影響を及ぼすわけではありません。狭心症や心筋梗塞の発症経験があるようなリスクの高い場合を除けば、薬物療法を開始する前にまず生活習慣の改善を行います。

脂質異常症の治療に使用される薬

主に、血液中の中性脂肪及びLDLコレステロール値を下げる薬に分類されます。

LDLコレステロール値を下げる薬

スタチン(HMG-COA還元酵素阻害薬

細胞内でのコレステロール合成に重要な役割を果たすHMG-COA還元酵素阻害薬の働きを妨げ、主に肝臓でのコレステロール合成を抑制する薬です。肝細胞内のコレステロールが減少すると、肝臓は、LDLというコレステロールを運搬するリポたんぱくに対する、受容体の活性を高めて血液中からより多くのLDLを取り込むようになります。つまり、血液中の脂質が減少します。LDLコレステロール値を下げる薬としては、最も確実にコレステロール値を低下させ冠動脈疾患の予防効果も確認されています。
LDLコレステロール値を20%、中性脂肪も10~20%ほどさがります。現在、6種類の薬があり、古いタイプのプラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチンに比べ、新世代のアトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチンは作用が強く、1日1~2回ほどの服用になります。

使用上の注意と副作用

一般的には、副作用の少ない長期間服用可能な薬ですが、筋障害や肝障害などが起こる場合があります。
特に腎機能が低下している患者さんには、フィブラート系薬との併用時には副作用に十分に注意します。妊娠中、または可能性のある女性には使用できません。

陰イオン交換樹脂(レゾン)

服用後にそれ自体は腸管から排出されずに肝臓でつくられて、腸管に分泌された胆汁中の胆汁酸や食事中のコレステロールを腸管内で吸着して便と共に排泄させる薬です。本来、小腸では、食物からのコレステロールなどの脂肪が吸収されるとともに、脂肪吸収に欠かせない胆汁酸が再吸収されて肝臓に戻ります。レジンがそれを妨げると肝臓細胞は、新たにコレステロールを原料として胆汁酸を生成するためにLDL受容体の活性を高めて血中からLDLを取り込みます。その結果、LDLコレステロールが低下します。コレスチミド、コレスチラミンンが代表的な薬です。
服薬は、1日2~3回で食前の服用です。

使用上の注意と副作用

便秘や下痢などの副作用がありますが、体に吸収されないタイプの薬のため、重い副作用はなく腎機能障害のある人、妊娠中の女性、子供にも使うことができます。ただしl脂溶性ビタミンやほかの脂溶性の薬剤の吸着を妨げる可能性があるため注意します。
脂溶性の薬剤と併用する際には、服用する時間をずらします。

小腸コレステロールトランスポーター阻害薬

小腸でのコレステロールの吸収を抑える新しい薬で2007年からエゼミブが使われるようになりました。
この薬は、小腸の粘膜にあるコレステロールの取り込み口(コレステロールトランスポーター)を特異的に封じられるような作用により、小腸でのコレステロールの吸収を阻害します。その結果、血液中から肝臓へのLDLの取り込みが促進されLDLコレステロール値が下がります。小腸では、コレステロールの吸収だけを阻害するため、脂溶性の薬剤やビタミンの吸収には影響しません。
単独でも通常の用量でLDLコレステロール値を2割ほど下げる効果がありますが一方で肝臓でのコレステロールの合成が亢進するためその合成を抑制するスタチンとの併用が効果的です。

使用上の注意と副作用

副作用は消化器症状で、肝臓障害や血液検査でCK値の上昇が報告されています。

プロブロール

血清コレステロールを減らす作用があり、黄色腫を改善する薬です。胆汁へのコレステロールの排泄促進以外にも強力な抗酸化作用があることから、LDLの酸化を防ぎ、動脈硬化を抑制する効果も期待できると考えられています。
ただし、HDLコレステロール値の低い人には、向きません。服薬は1日2回。

使用上の注意と副作用

不整脈がまれにでることがあり、また末梢神経炎による手のしびれが起こることがあります。

主に中性脂肪値を下げる薬

フィブラート系薬

脂質異常症の治療では比較的古くから使用されている薬です。中性脂肪を分解する酵素、リポたんぱくリパーゼの働きを活発にしたり、肝臓での中性脂肪の合成を抑制します。中性脂肪値のみが高い人、LDLコレステロール値と中性脂肪値が合併している人に効果的です。糖尿病が合併している人にも適します。代表的な薬は、クリノフィブラート、クロフィブラート、フェノフィブラート、ベザフィブラートです。1日1~2回の服用です。

使用上の注意と副作用

副作用は、肝機能障害ですが腎機能障害が起こる人もいます。スタチンとの併用で横紋筋融解症が起こりやすくなります。
ワーファリンの併用も作用を増強します。

ニコチン酸誘導体

ニコチン酸は、ビタミンの一種で中性脂肪、LDLコレステロールを下げ、HDLコレステロール値を上げます。作用はそれほど強くなく安全性の高い薬です。ニコモール、ニセリトロール、トコフェロールニコン酸エステルが代表的な薬で、1日3回食直後に服用します。

使用上の注意と副作用

末梢血管を改善する作用があり、副作用としてフラッシングがあります。特に日本人に多く見られるため少量から服用をはじめます。

イコサペント酸製剤(EPA)

肴の油に含まれるEPAという脂肪酸からつくられた薬で血液を固まりにくくし、血栓ができるのを防ぐ作用と中性脂肪を下げる効果があります。イサペント酸エチルという薬が治療に使用されます。
スタンチンとの併用で冠動脈疾患の発症を抑制する効果が確認されています。
1日3回服用します。

使用上の注意と副作用

消化器症状が多く、下痢なが報告されていますが、出血が止まりにくくなることがあります。糖尿病網膜症などがある人は注意します。

その他の薬

脂質異常症の薬には、次のような薬も補助的に使用される場合があります。

  • 植物ステロール…植物由来の成分の薬です。代表的な薬は、ガンマーオーリザノール、ソイステロールなどがあります。腸管でのコレステロールを減らします。
  • 脂質代謝異常改善薬…中性脂肪が高い場合に用いられる、デキストラン硫黄ナトリウム製剤、大豆から抽出したリノール酸を含みコレステロール値を下げます。ポリエンホスファチジリコン、肝臓でのコレステロールの分解と排泄を促す、エラスターゼ、パントテ酸の欠乏や代謝障害がかかわる場合に使われるパンテン、高コレステロール血症改善ビタミン剤のリボフラン酪酸エステルなどがあります。

脂質異常症治療薬の特性とタイプ別の使用方法

  • LDLコレステロール値が高い…スタチンを中心に、レジン、小腸コレステロールトランスポーター阻害薬、プロブコールなどが使われる。
  • 中性脂肪が高い…フィブラート系薬を中心にニコチン酸誘導体、EPAなどが用いられる。
  • LDLコレステロール値も中性脂肪も高い…スタチンとフィブラート系薬のいずれかを単独で使用するほか、スタチンとニコチン酸誘導体、プロブコールなどの併用が行われる。
分類名
一般名
代表的な商品名
スタチン
  • アトルバスタチン
  • シンパスタチン
  • ビタパスタチン
  • プラバスタチンン
  • フルバスタチン
  • ロスバスタチン
  • リピトール
  • ロポバス
  • リバロ
  • メバロチン
  • ローコール
  • クレストール
レジン
  • コレスミド
  • コレスチラミン
  • コレバイン
  • クエストラン
小腸コレステロールトランスポーター
エゼチミブ
  • ゼチーア
プロブコール
プロブコール
  • シンレスタール
  • ロレルコ
フィブラート系薬
  • クリノフィブラート
  • クロフィブラート
  • フェノフィブラート
  • ベザフィブラート
  • リボクリン
  • ビノグラック
  • トライコア
  • リピディル
  • ベザトール
  • ベザリップ
ニコチン酸誘導体
  • トコフェロールニコチン酸エステル
  • ニコモール
  • ニセリトロール
  • ユベラN
  • コレシキサミン
  • ペリシット
EPA
イコサペント酸エチル
  • エパデール
  • エパデールS

コメント

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  4. […] 病院に駆け込み、すぐに治療開始となります。この場合はこういった薬物療法が行われるはずです。、 […]

  5. […] 足の親指の付け根の関節が腫れる痛風は、血液中の尿酸が結晶化することで強い炎症を引き起こします。尿酸は、体内の新陳代謝によって生じる物質で、健康な体にも普通にとけ込んでいますが、過剰になると痛風の症状を引き起こします。血液中の尿酸が多くなりすぎるのが「高尿酸血症」です。性別を問わず血清尿酸値が7.0mg/dlを越えてしまうと痛風発作を起こす可能性が高くなります。高尿酸血症には、尿酸排泄低下型、尿酸産生過剰型の2つのタイプがあります。尿酸排泄低下型は、尿酸を排泄する能力が低下しており、、尿酸産生過剰型は、体内で尿酸が体内で尿酸が過剰に生成されすぎています。、また、このふたつが混合している混合型の3タイプに分けることが出来ます。 痛風発作自体は、治療をしなくても数日~1週間ほどで治まりますが、尿酸値が高いままであれば、発作を繰り返したり、皮下結節ができたり、尿路結石や腎障害などの合併症の可能性もでてきます。 高血圧や脂質異常症など、他の生活習慣病とも合併しやすく、動脈硬化を進展させたり、悪化させたりする危険性が高まります。 動脈硬化がすすすむと、心筋梗塞、脳卒中などの重大な病気の危険性も高まります。 痛風そのものも危険な症状ですが、実際にはこうした合併症の危険度が高いのです。 […]

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