糖尿病の治療に使われる薬について

糖尿病とは?

血液中のブドウ糖(血糖)が過剰になった「高血糖」の状態が継続するいわゆる、高血糖症です。血液中のブドウ糖の量は、食事の影響を受けて変動しますが、すい臓のβ細胞から分泌される「インスリン」というホルモンの働きによって通常は、一定の範囲内に自動的に調整されます。しかし、十分なインスリンが分泌されなかったり機能しなかった場合、血液中に余分なブドウ糖が増加してしまいます。日本人の糖尿病の多くは、食事や運動不足による生活習慣病と密接に関連した「2型糖尿病」です。治療には、食事療法、運動療法を取り入れますが、それだけで間に合わない場合には、薬を服用します。

  • 1型糖尿病…すい臓のβ細胞が破壊され、インスリンが分泌されなくなるために高血糖になるタイプ。
  • 2型糖尿病…インスリンは分泌されるものの、必要な時に十分に分泌されなかったり、正常に作用しないために高血糖になるタイプ。長く続くと、インスリンを分泌する能力が低下する場合も。

高血糖の状態があまり長く続くと、網膜症、腎不全、神経障害といった病気をはじめ、さまざまな合併症が起こりやすくりなります。動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞とった危険性も高まります。
糖尿病本来の症状よりもこうした合併症の方が危険です。
最近では、高血糖の状態が続くと、その糖がすい臓のβ細胞のインスリ分泌能力を低下させ、さらにインスリン抵抗性を高めてしまうことが確認されています。この状態は、悪循環に陥りやすく、糖尿尿をさらに進行させる原因ともなります。糖尿病とわかったら早期に高血糖状態を改善する治療を行わなくてはなりません。

血糖コントロールの指標と評価

指標
可能
不可
不十分
不良
ヘモグロビンA1c(%)
5.8%未満
5.8~6.5
6.5~7.0
7.0~8.0
8.0以上
空腹時血糖値(mg/dl)
80~110
110~130
130~160
160以上
食後2時間(mg/dl)
80~140
140~180
180~200
220以上

糖尿病の合併症を予防するためには、「優」または、「良」の血糖コントロールが不可欠になる。

糖尿病の治療法

血糖値を下げるために行われる治療が、食事療法と運動療法、薬物療法の3つになります。2型糖尿病では、食事療法と運動療法で体重を適正ただし、インスリンの働きを正常化させることがまず治療の基本となります。
エネルギー量が適切で栄養バランスがとれているかなどが大切になります。実際、こういった生活習慣は、糖尿病でなくても心がけるべき習慣となります。糖尿病であれば、特に重要になるということです。
こうした習慣を心がけても血糖値が下がらない場合には、薬物療法を加えますが、処方される薬は、「経口血糖降下薬」や「インスリン製剤」です。
1型糖尿病の場合であれは、体外からインスリンを補う治療が必須となります。

治療に用いられる薬

経口血糖降下薬

糖尿病の薬物療法に用いる経口血糖降下薬は、主な作用により「インスリンの分泌を促進する薬」「糖の吸収を遅らせる薬」「インスリンの抵抗性を改善する薬」に分類され、病態に応じて単独で用いられたり、組み合わせて処方されます。

経口血糖降下薬の分類

分類名
一般名
代表的
商品名
作用時間
(時間)
特徴
スルホニル尿素
(SU)薬
第一世代
アセヘトヘキサミド
ジメリン
10~16
尿酸排泄作用もある
グリクロピラミド
デアメリン
6
 
グリブゾール
グルデアーゼ
12~24
 
クロルプロパミド
アベマイド
24~60
 
トルブタミド
ヘキストラスチノン
6~12
SU薬の中でも作用が緩やか
第二世代
クリクラジド
グリミクロン
6~24
作用は強力。網膜症の進行を防ぐ効果にも期待。
グリベンクラミド
オイグルコン
ダオニール
12~24
作用はSU薬の中で最も強い。
第三代
グリメピリド
アマリール
6~12
インスリン分泌作用とインスリン抵抗性改善作用を併せ持つ。
即効型インスリン分泌促進薬
ナテグリニド
ファスティック
スターシス
3
作用の効果があらわれるのが早く、食事の直前に服用。
ミチグリニド
グルファスト
3
ビグアナイド薬
ブホルミン
ジベトス
6~14
低血糖が起こりにくい
メトホルミン
グリコラン
メルビン、メデット
6~14
肥満を合併している場合に、有効。
チアゾリジン薬
ピオグリタゾン
アクトス
20
3ヶ月ほど継続しないと効果の有無がわからない。
α-グコシダーゼ阻害薬
アカルボース
グルコバイ
2~3
低血糖を起こしたらブドウ糖を用いる。
ポグリボース
ベイスン
2~3
ミグリトール
セイブル
1~2

スルホニル尿素(SU)薬

すい臓のβ細胞を刺激し、インスリンの分泌を活発にさせる薬です。経口血糖降下薬のなかでは最もメジャーな薬です。血糖降下作用についても強力です。ただし、インスリンを分泌する機能が保たれている人に有効な薬です。
次のように3世代に分類されます。

  • 第一世代…アセヘトヘキサミド、グリクロピラミド、グリブゾール、クロルプロパミド、トルブタミド
  • 第二世代…クリクラジド、グリベンクラミド
  • 第三世代…グリメピリド

現在は、第二世代と第三世代の薬が主に用いられています。種類により作用時間が異なり、医師の処方をきちんと守りながら服用しますが、通常は、1日1~2回、原則として食前に服用するのが一般的です。

使用上の注意と副作用

原則的には、少量から使いはじめ、除々に増量します。ある程度血糖値が下がってくると、空腹時や食事の時間が遅れた場合などに低血糖を起こすことがあるため注意が必要です。インスリンには、余剰分のブドウ糖を脂肪に蓄える性質があるため、体重増加も気を付けなければなりません。

即効型インスリン分泌促進薬

スルホニル尿素薬と同様に、すい臓のβ細胞を刺激してインスリンの分泌を促進する働きがあります。特徴は、服用時間後、短時間ですぐにインスリンが分泌されます。ナテグリニド、とミチグリニドという薬があります。
食事のたびに服用しなければなりませんが、自然な状態に近いインスリン分泌が期待できます。
血糖値の変動が大きく、食後に極端に高くなる場合に、血糖値の急上昇を防ぐために服用する場合もあります。
単独で用いる場合以外に、α-グルコシダーゼ阻害薬やビグアナイド薬などと併用する場合もあります。スルホニル尿素薬とは併用できません。

使用上の注意と副作用

食事の直前(10分以内)に服用します。30分以上の時間があくと、食事をする前に低血糖が起こることがあります。副作用で軽い消化症状が現れることがあります。肝機能障害や腎障害のある人は、低血糖を常に気を付けながら服用します。

ビグアナイド薬

主に、肝臓でブドウ糖が生成されるのを抑制して血糖値上昇を防ぐ薬です。末梢組織でのインスリン抵抗性を改善する効果があります。肥満を合併している方に向いています。ブルホルミンとメルホルミンがあります。
1日2~3回、食後に服用します。単独で用いるほか、スルホニル尿素薬やインスリン製剤とも併用されます。

使用上の注意と副作用

ビグアナイド薬だけであれば、低血糖はほとんど起こりませんが、ほかの薬と併用している場合は、低血糖が起こりやすくなります。ごくごくまれに乳酸アシドーシスという意識障害を伴う副作用も起こる可能性があるので、無茶な飲酒、下痢などの脱水症状には十分注意します。
肝臓、心臓、腎臓、肺の機能障害がある人は厳禁です。

チアゾリジン薬

インスリンが機能する組織、筋肉、肝臓といった部位でのインスリン抵抗性を改善する薬で、インスリンの働きをよくします。現在、ピオグリタゾンという薬があります。1日1回、朝食前またh、朝食後に服用します。

使用上の注意と副作用

副作用は、むくみ、貧血、息切れなどがあります。心機能が弱っていたり、低下している人には慎重に扱うようにします。心不全、重症の肝機能障害・腎機能障害があれば処方しません。

α-グルコシダーゼ阻害薬

小腸内で炭水化物をブドウ糖まで分解する過程で働く酵素の働きを抑制する薬です。小腸での糖の吸収を緩やかにし、食後の血糖値の急上昇を抑えます。
空腹時の血糖値はそれほどでもないのに食後の血糖値は急上昇してしまうタイプの糖尿病に処方します。スルホニル尿素薬やチアゾリジン薬、インスリン製剤との併用も行われます。アカルボース、ボグリボーズ、ミグリトールという薬があります。食事の直前に服用します。

使用上の注意と副作用

必ず食前に服用します。食後では効果がありません。飲み始めは、おなら、腹部膨満感などの副作用が出やすいのですが、続けて飲んでいるうちによくなります。肝臓に障害がでる副作用があるので、定期的に検査をします。

合併症治療薬

糖尿病の合併症である神経障害の治療にアルドース還元酵素阻害薬のエpルレスタットや神経障害治療薬のメキシレチンなどが用いられます。
腎臓の治療に、Ⅰ型の場合はACE阻害薬のイミダプリルやⅡ型の場合は、ARBのロサルタンなどの降圧剤を用いたり、血管拡張薬のイソクスプリンなどを用いることもあります。

インスリン製剤

糖尿病の薬物療法には、経口血糖降下以外に注射薬のインスリン製剤を用いるインスリン療法があります。

インスリン療法について

インスリン製剤を注射によって体外からインスリンを補い、すい臓からのインスリンに代わる働きをさせる方法です。従来は、Ⅰ型で使用されてきましたが、Ⅱ型でも経口薬が使えない場合はや、経口薬を使用しても血糖値のコントロールがうまくいかない場合などに必要になります。最近は、薬と注射器の進歩により痛みがなく自然に近い血糖コントロールが可能になりました。
すい臓からの正常なインスリン分泌には、常に一定量が分泌される基礎分泌と食事の際に血糖値の上昇に合わせて分泌される追加分泌があります。これらふたつの分泌が正常に機能して血糖値が一定の範囲内に保たれています。
現在のインスリン療法は、インスリン製剤で不足分を補うことで正常なインスリン分泌に近づけています。

インスリン製剤の種類

現在使われているインスリン製剤は、遺伝子工学の技術によって作られたヒト型インスリンです。作用時間の違いから

  • 超即効型
  • 即効型
  • 中間型
  • 特効型溶解(持続型)
  • 混合型

の5種類に分類されます。
超即効型、または即効型インスリンと中間型インスリンをあらかじめ混合したものが混合型になります。
基礎分泌の補充には中間型か特効型溶解が、追加分泌の補充には即効型か超即効型が用いられます。混合型は、基礎分泌と追加分泌の両方を補充します。
注射器のタイプは次のとおりです。

  • バイアル…瓶に入った従来型のインスリン製剤。単位目盛りのついた専用の使い捨て注射器に必要量を吸い上げて使う。
  • ペン型注射器用カートリッジ…カートリッジにインスリン製剤が入っていて、専用のペン型注射器に入れ替えて使用する。注射器のダイヤル目盛りで薬の量(単位)が設定可能。
  • 使い捨てペン型注射器…ペン型注射器にあらかじめインスリン製剤が入った一体型。カートリッジの入替えが不要の使い捨てタイプ。

現在は、ペン型注射器が主流になっています。注射の方法は、カートリッジ式と同様です。

インスリン製剤の種類と作用時間

作用
一般名
商品名
服用方法と効果
超即効型
10~15分で作用し、速やかにピークに達して速やかに消失。
インスリンアスパルト
ノポラピッド
食事の直前に服用。追加分泌を補充する。
インスリンリスプロ
ヒューマログ
即効型
約30分で作用し、ピークは2時間後。作用の持続時間は、5~8時間
ヒトインスリン
  • イノレットR
  • イボリンR
  • ヒューマカートR
  • ヒューマリンR
  • ペンフィルR
食前に服用。追加分泌を補充する。
中間型
1時間ほどで作用し始め、緩やかにピークに達してゆっくりと消える。作用時の持続時間は18~24時間。
ヒトインスリン
  • イノレットN
  • イボリンN
  • ヒューマカートN
  • ヒューマリンN
  • ペンフィルN
1日に1~3回服用し、主に基礎分泌を補充。
インスリンリスプロ ヒューマログN
特効型溶解
1時間ほどで作用しはじめ、明らかなピークはなくほぼ24時間継続して作用する。
インスリングラルギン
ランタス
1日に1~2回服用し、基礎分泌を補充。
インスリンデテミル
レベミル
混合型
超即効型または即効型と中間型を混合。組み合わせ方によって作用時間などは異なる
インスリンアスパルト
ノボラピッド30ミックス 1日に1~2回服用し、基礎分泌と追加分泌を補う。
ヒトインスリン
  • イノレット30~50R
  • ノボリン30~50R
  • ペンフィル30~50R
  • ヒューマカート3/7
  • ヒューマリン3/7
インスリンリスプロ
ヒューマログミックス25、50

注射の方法

インスリン注射に適するのは、次の部位となります。腕の外側、臀部、大腿部の上で半分の外型部分、腹部です。腹部は薬の吸収がよく皮下に注入しやく最も適しています。穿す場所は毎回かえるようにします。
皮膚を軽くつまんで筋肉に達しないように皮下に注射します。注射針は1回使用したら毎回捨て、次から新しいものを使います。
血糖のコントロールをできるだけ自然な形のインスリン分泌に近づけるには、適切なタイプのインスリン製剤を適切な量、そしてタイミングで補う必要があります。
毎食前に即効型または、超即効型を、就寝前に中間型または、特効溶解型を1日4回注射するのが基本的な方法です。

血糖を下げる目的は誰もが同じでもインスリン分泌の状態や生活状況、食事などにもよりそれぞれ異なります。

使用上の注意と副作用

インスリンは血糖を下げる作用があるため、低血糖を起こす場合もあります。また、同じ部位ばかりに注射し続けると皮膚が硬くなったりでこぼこしたりします。注射する部位は毎回変えていくようにします。

糖尿病
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コメント

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